書籍発刊、Xデーを越えて…2022,6月@戻りつつある日常の京都から

その日、のあとにも日々はあった。

Xデーの想像のつかない日、がある。
たとえば受験とか。ひたすら《その日》のために集中し、力を蓄える、ような。

昨年末くらいから、さらに今年の3月あたりから。いよいよ「入稿日」が《その日(Xデー)》として迫り来る中、時間の流れかたがなんだか異様になった。
めちゃめちゃ濃密な感じ。分厚くて、濃くて、ゲル状の水中をノンブレスで遠泳しているような。
もともと文章のプロではない。
何回も読み返して、どこまでやれば良いのか、もはややりすぎなのか、よくわからない。

大量の修正原稿。写真は一部。

けれど、つらい、というのとは少し違う(苦しさはたっぷりあったけど)〔*1〕
創造のおもしろみ。もう少し思い切って書くと幸福感、のようなものがある。
Xデーが来ることがこわくもあったし、永遠にこないような感じもした。
ちょっと、来てほしくないな(…このまま「その前の日々」でいたいな)、との感じもあった。(ヤバいやつ~)

しかし、《その日》は来たのだ。
さらに《その日》の次の日も、その次の日も。
ほんで「発売日」を経て、今日にいたる〔*2〕

6月15日。発売日を迎えた。紙の手触りと重み。

* * *

《その日》までは、創作の日々だ。個性豊かな(過ぎる)人たちとチーム〔*3〕で臨んだ本書の制作の日々は、私の不慣れと勘違いからときどき脱線事故を起こしそうになりつつも(脱輪くらいはしたかもだが)めちゃめちゃおもしろく充実し、醍醐味があった。
校了を境に、書籍は手を離れる。だれかに読まれるものとなる。

私の「へたれイラスト」からも「価値」を見いだしていただき書籍に採用いただいた。

圧倒的な質的不連続。日々の質が、がらりと変わる〔*4〕
校了前、私はこの「境界」を目の端で捉えながらも、あえて手元に集中し、見ないふりをして過ごした。(だってこわいもん。気にしてたら間に合わない状況でもあったしね。)

この、日々の質の劇的な変化のせいだろうか、「校了ブルー」とでも呼ぶべき状況に陥る著者さんがいるという。
、、、わかる。入り口見えてたもん。というか、ふくらはぎくらいまで入っていたかも(まあまあ入っとるやん!)。

つくる日々が終わる。見られるこわさか?いや、それ以前のこわさだなあ。なんだろう、あの感覚〔*5〕

淵に足を取られることなく、《その日》のあとの日々がこうして回り始めたのは、新しい現場、新しい出会い〔*6〕の力が大きい。
幸いにして(本当の本当にありがたいことに)出版を機に、いくつかの関連企画をご用意いただいてたり、お声がけいただいたりしている〔*7〕
企画って、やっぱり楽しい。
つくることだもの。
つくること(新たな企画)によって、つくること(書籍制作)の喪失を塗り替えていってるのかもしれない。
そして日々の業務がある。日々の業務に戻れることもまたじんわり楽しく、賦活してくれる。

校了は九州で迎えた。バタバタな旅程であったが、それのおかげで淵に落ちずにすんだのかも(大牟田市・歴木の魅惑的な住宅地を歩く)。

* * *

Xデーをまたぐ、不思議な感覚とこの経験を書き留めたくて久々にブログを書いた。
書籍制作の日々を振り返るのは、またあらためて。
編集・制作チームとのやりとりと、何より、真剣な実事業の取り組みの日々を書籍に載せることを、こころよくお許しいただいたすべての「現場のかたがた」とのコミュニケーションと。
言葉にするのがもったいないほどの経験だったから。

■補足

*1
苦しさ:
創作の苦しみは当然として、思いがけず物理的な苦しさを味わった。終盤、交錯する情報量と文字量の多さからか?編集・制作チームの連絡用スラックに書かれている文章の意味が取れなくなるという状況(症状?)に陥り、全文をGoogledocumentにコピペして読み取る、などしてしのいだ。(脳内処理の閾値を越えた、ある種のデバイスアレルギーか。摩訶不思議。)

*2
《その日》、「発売日」:
「入稿日」を長らく目指すべきゴール地点(=Xデー)として見定めていた。しかし実際にはそこですべてが手離れするわけではなく、「校了日」まで何かと想像もしていなかった作業があった。入稿日までは覚悟をしていたが、それ以降の日々は峠の崖の向こうのように当時の私にはまるで見えていなかった。崖の向こうのエアポケットに「発売日」があった。

*3
チーム:
出版社(BNN)から須鼻さん、村田さん。デザイン担当はsukkuの青松さん、上原さん。LINKから小野さん、由井、ときどき貴志さん。そしてハブとして井原さんにかしこくも八面六臂の活躍をいただいた。終始パラレルに複数のメンバーで進み(この人数はわりと少ないパターンらしい)、私は「動機はあれどまとまった時間を取りづらく技術と経験を持たない当事者」として専門家のみなさんと(書籍づくりという)プロジェクトに取り組み、当事者の悩みと幸福を味わった。別の機会にゆっくり振り返りたい。

東京在住の井原さんとなぜか対面のローテクでページ割を考える@京都(京都在住疑惑が生まれた)

*4
質的不連続:
書籍づくりは私にとって「特別なできごと」であった。その「異常な質の日々」が終わりを迎える。一方、プロジェクトのパートナーとなっていただいたそれぞれにプロフェッショナルのみなさんにとっては「いつもの日々」である。書籍づくりという「いつもの仕事」に責任と誇りをもって臨み、「当事者」であり初心者である私をプロの技で終始支えてくれた彼らの横顔は頼もしく、かっちょよかった。書籍づくりが「いつもの業務」って、(簡単ではないが)うらやましささえ感じるステキ業務である。

*5
それ以前のこわさ:
たぶん、「著作者になる」というこわさだろう。単著を出すとなった時点で「当然の未来」であったわけだが、私はあえて見ないでいた。それよりは、とにかく書籍を創りたかったし(届けたいとの思いはもちろんある)、制作は楽しい。もうすぐ出版されるという現実が見えてきてあらためて身に迫ってきたのだ。芸大生時代、デザイン科の私のとなりで、すでに著作活動(制作活動・アーチスト活動)をしていた同級生たちの「剥き身のひりつく感覚」をようやく少しだけ知れた気がする。
なお「校了以降は著者1人の単独航路」と思っていたが「ちがうよ、版元もいっしょだよ」と村田さん。そうか。ほっ。「版元」ってかっちょいい。

発売日(6月15日)書店に行ったらホントにあった。SFのようだ。(購入して書店のカバーをかけてもらった。ブツの説得力)

*6
新しい出会い:
奇しくも校了のタイミングで、デザイン学会の情報デザイン研究部会のみなさんに、新たなフィールドに連れ出していただいた。
はじめての場所ではじめての人たちと、タスクゼロの状態で、自分が何に心が動くのか再確認することができた。
大牟田の歴木地区と、柳川と。よかった、空っぽになったわけじゃなかった。

自転車で巡った柳川で

ワラスボに出会う

*7
関連企画:
書籍出版のタイミングで3つのイベントがある。6/25(土)デザイン学会[情報デザイン研究部会presents]、7/1(金)成安造形大学[大草ゼミ生presents]、7/16(土)HCD-Net[広報社会化事業部presents]、いずれもオンライン参加可能、無料、要申し込み。
↓詳細は『動機のデザイン』公式HPへ
https://douki-no-design.jp/

出版から10日。油断はならないが「その日のあとの日々」に、健康に移行できつつあるのかも?


■参考ページ

『動機のデザイン』のアイデアは2017年のXデザインフォーラムで初めて発表し、以来、ポスター発表や論文など、機会を求めて少しずつカタチにしてきた。
本ブログでの記録はこちら。

□3つめのデザイン=「動機のデザイン」をとにかく投げてみた!話し。・・・20170924sun.@Xデザインフォーラム・千葉工大
https://mlog.link-cd.jp/20171003-521.html

□「動機のデザイン」さいしょの一歩。…20190918wed.成安造形大学 大草ゼミ合宿
https://mlog.link-cd.jp/20190923-874.html

□授賞式と安息日。HCD-net AWARD2019…20191129fri.~30sat.@東海大学高輪キャンパス
https://mlog.link-cd.jp/20191201-936.html

□アウォード一周年と月と勇者たち…20201127fri.~28sat.@HCD-net&感性商品研究部会
https://mlog.link-cd.jp/20201224-1090.html